『永遠の仔』(五)言葉

永遠の仔〈5〉言葉 (幻冬舎文庫)

永遠の仔〈5〉言葉 (幻冬舎文庫)


最後の志穂の遺書には「そうでなくっちゃ」と思った。


「子育ては母親の仕事」だからではない。「父親が娘を虐待してるなら、母親が守らなくてどうする」と思うから。しかし、最初に優希が打ち明けたとき、信じなかった志穂が、信じる転機となったのが何なのか、はっきりわからず、それを知りたかった。「わたしが寝込んだあとは優希も調子が悪くなることが、多かった気がするの」というセリフはあったが、そういったことから推察したのか、あるいは雄作がなんらかの時についうっかり口にしてしまったのを聞いてしまったのか(例えば寝言、とか)?


どちらにしても、久坂家崩壊の重要な原因は志穂の心身が弱かったことだと思う。心身が弱かったために、実家から精神的にも肉体的にも自立できず、雄作の心も離れてしまった。そしてもう一つの失敗は、雄作が身の程知らずにも、そういう”いつまでも末っ子のお嬢さん気分が抜けきれない”志穂と結婚してしまったことだ。いくら”綺麗”でも、そういう実用的でない女性を庶民の男性が幸せにすることは難しいと思う。志穂のような、心身の弱い女性は、お手伝いを雇えるほどの資産家と結婚しないと幸せにはなれないと思う。


もちろん、一番悪いのは雄作であるが、お互いに身の程を知っていれば、こういうことにはならなかったのではないか?志穂は何で雄作と結婚したんだろう?不思議である。


モウルとジラフはお互いに「自分に資格がない」と思っていて、優希と志穂はお互いに「自分がやった」と思って(志穂の場合は事実であるのだが)、自分を罰するかのような生活を送る。モウル、ジラフ、優希の3人に関していえば、そうしてマトを外れた”お察し”を基盤として17年間もズレてきてしまった。これはとても日本的な発想であるなあ、という気がした。


これがお互いの立場を表明し合う外国なら、「オレはやらなかったから資格はオマエにある」というような立場の確認が行われるのではないか?そして「いや、オレもやっていない」「じゃあ、真犯人は誰なんだ」と即座に犯人探しが行われ、17年間も間違った思い込みのまま、ということは考えにくい。